家賃増額は管理会社がどこまで交渉できる?弁護士介入の判断基準
——管理会社の役割と限界を知ることが、家賃増額成功の分岐点——

家賃を上げたいと考えたとき、多くのオーナー様がまず相談するのが管理会社です。管理会社が増額交渉も全部やってくれると思っているオーナーさんも少なくありません。しかし「管理会社はどこまで介入していいのか」「どこから弁護士に任せるべきか」を曖昧なままにしておくと、増額交渉がうまくいかなくなることになります。
このコラムでは、民事調停官の経験を有する福岡の弁護士が、
・管理会社はどこまで借主と交渉できるのか
・どこから弁護士に任せるべきか
について解説します。
実務ではグレーに処理されがちですが、結論から言うと、
- 管理会社は「事実行為としての説明・連絡」は可能
- 法的主張を前提とした交渉は弁護士領域
- 最終的な合意形成は原則として貸主本人またはその代理人(弁護士)
という整理になります。
1⃣ 管理会社の法的立場
管理会社は通常、貸主との間で管理委託契約を締結しています。
これは民法上の準委任契約です。
したがって、
- 管理会社は「管理事務」を処理する権限を持つ
- しかし「当然に訴訟代理権や法的交渉権を持つわけではない」
ここが出発点です。
2⃣ どこまでならOKか(管理会社の許容範囲)
① 市場賃料の説明
- 近隣相場の説明
- 固定資産税の上昇
- 修繕費の増加
- 更新時の見直し提案
これは単なる事実説明・提案ですので、違法ではありません。
② 家賃増額「提案」
「オーナーとしては◯◯円への改定を希望しています」
ここまでは通常問題ありません。これは法的主張ではなく意思伝達です。
③ 協議の取りまとめ
「では◯◯円で合意しましょうか?」
ここからは微妙になります。
- 単なる条件調整レベルならOK
- 法的根拠を述べて説得し始めるとアウト寄り
3⃣ どこから弁護士法72条の問題が出るか
弁護士法72条(参照:e-Gov法令検索)は、「報酬を得る目的で、法律事件について、法律事務を取り扱うこと」を禁止しています。
賃料増減額請求は明確に「法律事件」ですので、以下のやりとりはアウトの可能性が高いです:
- 「本件は、借地借家法32条(参照:e-Gov法令検索)に該当するので増額請求できます」
- 「裁判になれば◯万円くらいに増額されると思います」
- 「◯万円で応じられないというのであれば訴訟になりますよ」
これは法律判断を前提にした交渉です。管理会社がここまでやると弁護士法に違反するリスクがあると言えるでしょう。
4⃣ 家賃増額の際の実務上の境界線
管理会社ができること:交渉の入口〜中盤を担う専門家
管理会社は、日常的に借主と接しているため、初期段階で借主とやりとりをすることはむしろ望ましいです。弁護士が最初から介入すると借主さんの警戒心が増大し、話が進まないことが多いです。まずは、管理会社さんに打診をお願いするのがいいと思います。
弁護士の視点から見ても、次の3点は管理会社の強みです。
- 相場調査と根拠の整理 — 周辺相場、固定資産税、修繕履歴など、増額の理由となるデータを集められる。
- 借主の感情調整 — 拒否理由の多くは「突然で驚いた」「理由がわからない」といった感情的なものです。管理会社が第三者として説明することで、対立を避けながら納得を引き出すことが見込めます。
ここまでは管理会社の得意領域であり、オーナー様が直接動くよりもスムーズに進むことが多いのが実務の実感です。
管理会社の限界:法的判断が必要な局面には踏み込めない
一方で、管理会社には明確な限界があります。それは、法的判断を伴う行為は一切できないという点です。
弁護士が介入すべき典型的な場面は次のとおりです。
- 借主が明確に拒否した後の対応 — ここから先は法律問題であり、管理会社が判断するとトラブルの原因になる。
- 内容証明郵便での正式請求 — 法的効果を伴う文書の作成は弁護士の業務。
- 調停・裁判での主張立証 — 管理会社は裁判所での手続きはできない。
つまり、管理会社は、借主が明確に拒否をした場合は、必ず弁護士にバトンを渡すというのが、正しい役割分担だと思います。
弁護士が入ることで交渉は「後半戦」に進む
特に、弁護士が入ることで次のステップに進めます。
- 内容証明郵便での正式請求 — 交渉のステージを上げ、法的な意思表示を明確にする。
- 調停・裁判での増額請求 — 調停官経験があれば、裁判所の判断ポイントを踏まえた“勝てる主張”を組み立てられる。
重要なのは、
「管理会社でダメだった=増額は無理」ではない
ということです。むしろ、管理会社→弁護士という流れは、最も成功率の高い“王道ルート”です。
■結論:管理会社と弁護士の二段構えが、家賃増額の最短ルート
家賃増額は、
管理会社のコミュニケーション力 × 弁護士の法的判断
という二段構えが最も成功率が高い方法です。
- 管理会社は、借主との関係を壊さずに進める“前半戦のプロ”
- 弁護士は、拒否後の対応や調停・裁判を担う“後半戦のプロ”
この役割分担を理解しておくことで、
「どこまで管理会社に任せるべきか」
「どのタイミングで弁護士に相談すべきか」
が明確になります。
一番いいのは、賃料を上げたいと思った時から弁護士に相談し、弁護士の後方支援を受けながら管理会社が借主とやりとりをすることです。その結果、話が進めばそれに越したことはないし、借主が明確に拒否をした場合は、その時に初めて弁護士が前に出る、というのが理想的です。
最初の一歩は非常にシンプルです。
まず、「管理会社さんに弁護士を紹介してもらって賃料の値上げについて相談する」ことです。
これが、不動産収益を最大化する最短ルートです。
当事務所は、管理会社からのご紹介によって賃料増額請求を多く扱ってきました。ぜひ一度ご相談ください。


