飲食店の賃料増額はどこまで可能?相場・法的根拠・進め方を弁護士が徹底解説

まず言えることは、飲食店の賃料は、オフィスや住居と比べても「立地」「人通り」「周辺店舗の入れ替わり」の影響を強く受けるということです。
再開発や観光客の増加、インバウンド需要の回復などにより、同じエリアでも数年前とは賃料水準が大きく変わっているケースも少なくありません。
一方で、飲食店側は原材料費・人件費・光熱費の高騰に直面しており、賃料増額は経営に直結する重いテーマです。
そのため、オーナー・管理会社としては「どこまで増額を求めてよいのか」「法的に認められるラインはどこか」を冷静に整理しておく必要があります。
本コラムでは、民事調停官の経験を有する弁護士の視点から、
・飲食店の賃料増額が認められる条件と
・実務で押さえるべきポイント
を解説します。
■1 飲食店の賃料増額の法的な基本枠組み
飲食店の賃料増額も、基本的なルールは他の事業用物件と同じく、借地借家法32条(参照:e-Gov 法令検索 借地借家法32条)が基準になります。
つまり、
「今の賃料が、客観的に見て不相当と言えるかどうか」
が、増額の出発点になります。
飲食店だから特別に厳しい・緩いということではなく、あくまで「相場」と「事情の変化」が鍵になります。
■2 官公庁データから見える“賃料を取り巻く環境変化”
さらに、賃料が不相当かどうかを判断するうえで、公的データを根拠として示せるかどうかは非常に重要です。
▼ 地価や商業地の動向
国土交通省は、地価公示や地価調査などを通じて、商業地を含む地価の推移を公表しています。
商業地の地価が上昇しているエリアでは、賃料水準も連動して上がる傾向があります。
(参照: 国土交通省 地価公示・地価調査等 )
▼ 物価・経済事情の変化
飲食店の賃料増額では、「経済事情の変化」をどう説明するかも重要です。
総務省統計局は、消費者物価指数(CPI)を公表しており、飲食料品や外食関連の物価上昇が確認できます。
(参照:総務省統計局 消費者物価指数)
これらのデータは、「地価や物価が上がり、従来の賃料水準が現状に合わなくなっている」という説明の裏付けとして活用できます。
■3 飲食店の賃料が“上げやすい”典型パターン
飲食店特有の事情として、次のようなケースでは、賃料増額が検討されやすくなります。
- ① 再開発や観光地化でエリア価値が大きく上昇した場合
再開発・駅前整備・大型商業施設の開業などにより、人通りや集客力が大きく向上したエリアでは、飲食店の賃料相場が上昇しやすくなります。
同じビル内や同じ通り沿いで、新規契約の賃料が明らかに高くなっている場合、既存テナントとの賃料差が「不相当」と評価される余地が出てきます。
- ② コロナ禍等で一時的に賃料を下げ、その後売上が回復した場合
コロナ禍で売上が急減した飲食店に対し、オーナーが一時的に賃料を減額したケースは多く見られます。
その後、売上が回復し、周辺相場も戻っているにもかかわらず、一時的な減額水準のまま据え置かれている場合、事情変更を理由とした増額請求が検討されます。
- ③ 建物・設備の維持管理コストが増加している場合
飲食店は、排気・給排水・ガス設備など、設備負担が大きい用途です。
修繕費や設備更新費、清掃・管理コストが大きく増加している場合、オーナー側の負担増を反映した賃料見直しが議論されることがあります。
■4 実務での進め方:いきなり「通知書」ではなく、根拠づくりから
飲食店の賃料増額を検討する際は、次のステップで進めると、トラブルを避けやすくなります。
●ステップ1 相場・データの整理
- 同一ビル・同一エリアの賃料水準
- 新規募集賃料との比較
- 地価公示・地価調査の動向(国土交通省)
- 物価・経済事情の変化(総務省CPI)
- 固定資産税・管理費等の推移
まず、これらを整理し、「なぜ今、増額が必要なのか」を自分たちの中で明確にします。
●ステップ2 テナントへの事前説明
つぎに、飲食店は、賃料負担が経営に直結します。
いきなり「○月から賃料を増額します」という通知書を送るのではなく、まずは面談や電話などで、
- エリアの変化
- コスト増加の状況
- 相場との乖離
を丁寧に説明し、理解を得るプロセスが重要です。
●ステップ3 書面での正式な増額請求
そこで、借地借家法32条に基づき、書面で増額請求を行います。
この際、
- 相場資料
- 官公庁データの抜粋
- 固定資産税等の資料
などを添付すると、「感覚ではなく、根拠に基づく増額」であることが伝わりやすくなります。
●ステップ4 交渉・段階的な増額案の検討
最終的には、一度に大きく引き上げるのではなく、
- 数年かけて段階的に増額する
- 一定期間は据え置き、その後に見直す
といった柔軟な案も検討に値します。
飲食店の経営継続と、オーナー側の適正利回りの両立を目指す視点が重要です。
■5 飲食店ならではのリスクとバランス感覚
飲食店舗は、内装にお金をかけて営業を行っていることが少なくありません。その場合、できるだけ移転したくないと考えるので、賃料増額をある程度受け入れやすい土壌があります。一方で、近隣に競合物件が増えてきている場合は、賃料増額請求をされたことをきっかけに退去および移転を決意するケースも少なくありません。
そのような飲食店ならではの特徴を考慮しながら、増額交渉をしていく必要があります。
「法的に増額できるか」だけでなく、「増額請求をすると退去されないか」「増額後も継続的な賃料収入が見込めるか」という経営的視点も欠かせません。
■6 まとめ:飲食店の賃料増額は「データ」と「対話」が決め手
結果として、飲食店の賃料増額は、
- 相場との乖離
- 地価・物価・コストの変化
といった事情があれば、法的にも検討の余地があります。
ただし、飲食店は撤退リスクも高く、増額の仕方を誤ると、
「空室が長期化して、結果的に収益が悪化する」
という本末転倒な事態にもなりかねません。
だからこそ、
―官公庁データを含む客観的な根拠をそろえた上で、
―新規のテナント集客がうまくいく可能性がどのくらいあるのかを検討しつつ、
―テナントと丁寧に対話し、段階的な増額も含めて検討すること
が、実務上の重要なポイントになります。
飲食店の賃料増額は、法的判断と経営判断が交錯する難しいテーマです。
弊所には九州大学MBAの学位を有する弁護士がおりますので、法的判断と経営判断が交錯する案件にも対応できます。実務で判断に迷われる場面がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。


