家賃1.5倍はひどい?―賃料増額(値上げ)は“非情”なのか

最近、新聞やネット記事で「貸主から家賃を1.5倍にすると突然通告された」という見出しが躍ることが増えてきました。

この記事を目にした多くの人はこう感じます。

「それは貸主がひどすぎないか?」
「借主がかわいそうではないか?」

本コラムでは、民事調停官の経験を有する弁護士の視点から、

・賃料(家賃)を1.5倍にすることはひどいことなのか

・借主は、対抗することはできないのか

・貸主は、賃料増額の請求を遠慮すべきなのか

を解説します。


■1. 本質は「倍率」ではなく「適正」かどうか

確かに、家賃が突然1.5倍になった場合、生活や営業に大きな影響を与えます。そのような賃料を生えなくなる人(や会社)も出てくるでしょう。その場合は、賃料不払いとなって退去をしないといけなくなります。そんなことが簡単にまかり通る世の中であれば、確かに非情だし、不合理だと思えます。

しかし本質は、1.5倍かどうかではなく、「その増額が適正かどうか」です。

例えば、8万円の賃料を12万円にするという通告が来た場合をイメージしてみましょう。

現在、福岡市だけでなく、その周辺の新宮町や福津市などでは、地価が急騰し、固定資産税も大幅に上がってきています。周囲の相場が12万円になっているとして、その物件を、昔からの付き合いで8万円で貸し続けているとしたら、貸主(オーナー)は毎月4万円を借主に代わって負担している状態と言えます。

本来建物の修繕や維持管理に充てられるべき原資が削られれば、結果として建物の老朽化が進みやすくなり、借主にとっても「安全で快適な環境」を維持できなくなります。これはWin-Winの関係とはいえないでしょう。

賃料があがるということは、そのエリアの価値(人流や利便性)が上がったことの証拠です。営業用物件の場合は、その場所が「稼げる場所」に進化しているということです。借主がその価値を享受しながら、対価だけが過去に据え置かれる状態は、むしろ「貸主(オーナー)がかわいそう」な状態なのです。これを是正するために用意されている制度が賃料増額請求なのです。

2. 裁判所で1.5倍の増額は認められるのか

賃料増額請求が訴訟になった場合、裁判所は

  • 近隣賃料との比較
  • 公租公課の増減
  • 経済事情の変動
  • 直近合意時点からの経過期間

などを総合して判断します。

最近の実務上の傾向としては、

  • 10〜20%程度の増額が認められることはよくある
  • 30%前後の増額が認められることも珍しくなくなってきた
  • エリアによっては50%超の増額が認められることもありえる

というものです。逆に言えば、1.5倍(50%増)が当然に認められるケースは多くないということです。裁判所は通常、急激な増額を許容することには慎重です。

つまり、制度は暴走しないよう設計されています。

例えば、

10年〜20年間賃料の改定がない

地価上昇率が1.5倍〜2倍以上

建築費が30〜40%上昇

といった事情が重なっている場合は、50%増の増額はありえます。

例えば20年間賃料10万円のままだった物件について、周辺相場が15万円になっていれば、貸主としては15万円を請求したいでしょう。これは「暴利」ではなく、市場水準への回帰であって、責められるようなことではありません。

これはコストの面からも言えます。

  • ローン返済:月6万円
  • 管理費・修繕積立:月2万円
  • 固定資産税:月1万円

このコストを貸主は負担しなければなりません。 賃料10万円を維持し続ければ、利益がゼロになる日が見えてきます。これは、安全で快適な環境を借主に提供できなくなる日が近いうちに来るということを意味します。

3. 借主は守られている

また、そもそも、大切なことが知られていないように思います。

賃料増額請求は、貸主が増額の通知をしさえすれば当然に増額するというわけではありませんし、次回の支払日から新賃料を支払わなければならなくなるというわけでもありません。

借主はこれを拒否する権利があります。その場合、最終的には、調停や訴訟で、裁判所が決めることになります(当事者間で合意することもあります)。

そして実務上、裁判所は

  • 相場から大きく外れた請求は認めない
  • 段階的な増額を認めることもある

わけです。

もちろん、

  • 根拠なき極端な増額
  • 立退き圧力をかけるための過大請求

は問題です。

しかしその場合でも、増額を拒否して、従前どおりの賃料を払い続ければいいのです。貸主側が調停や裁判を起こしてくるかもしれませんが、その時は裁判所が間に入って、適切な賃料を決めることになります。極端な増額や過大な請求は認められない制度設計になっています。

借地借家法(参照:e-Gov法令検索)という法律で借主は守られています。

4. 結論

賃料増額は、借主をいじめる制度ではありません。

経済事情の変動に応じた、制度上の調整メカニズムです。

増額の倍率だけを見て善悪を決めることはできないです。

  • 賃料が何年据え置かれていたのか
  • そもそもの賃料が安かったという事情はないか
  • 近隣相場との差はどの程度あるのか
  • 裁判所はどの水準を相当と判断しているのか

などを考慮してからでないと、1.5倍がひどいかどうかは、わからないわけです。

当事務所では、不動産鑑定士と連携し、客観的なデータに基づいて適正値を算出しています。泥沼化した紛争になる前に、賃料増額について悩まれているオーナー様や管理会社様は、一度弊所にご相談ください。